危機的なのは「生きる力」の方ではないか
■創造探検塾代表  久野 哲也氏

――働かず、学校にも行かないニートの若者が、全国で64万人にのぼります。
 子どもの心と体を元気にしようと、95年に野外活動などをする私塾「創造探検塾」を福津市につくりました。不登校の小中学生が多かったのですが、00年ごろから20代以上の「引きこもり」の相談も増え、彼らの自立支援をしています。
 郵政や年金も問題ですが、少子化が進む中で、働く意欲や能力を失った若者が増えているわけですから、日本の将来にとって大きな課題です。

――ニートを生む背景は。
 若者にとって、将来の選択肢がIT業界などで知的労働をする一部のエリートと、フリーターのような低賃金の労働者に2極分化していて、将来への不安が 募っているのではないでしょうか。本当は、その中間に地道に商売やものづくりをする厚い層があるはずなのに、目が向かない。
 商店や中小の工場がどんどん減って、地道に働いて食べていく、という価値観が消えてしまった。金もうけのうまい人がヒーローとして注目される。ライブドアの堀江貴文社長の立候補は、そんな風潮を象徴しています。

――働く意欲を持たせるには、どうすればいいのでしょうか。
 働く場はいくらでもあるし、夢も持てるんです。アルバイトからピザ屋の社長になった人や、技術を生かして自動車修理工場を開く人もいる。ほんの少しの気力と努力があればできるのに、それを育てる教育と後押しする仕組みがない。
 例えば、これから定年を迎える団塊の世代が、子どもの世代とともに起業する。社会貢献したい、定年後の生きがいを探したい人は多いわけだから、そういう人たちと職のない若者を結びつける施策があったらいい。

――「ゆとり教育」を掲げていた国が、学力重視に転換しています。
 「生きる力」が大切だと言っていたのに、結果が出ないうちに「やっぱり学力が大事」では、大局観がなさすぎる。学力も大事ですが、日本の学力は世界的には低くない。危機的なのは、やはり「生きる力」の方ではないか。
 先生たちも気の毒だ。「生きる力」を育てようと真剣に取り組もうにも、学力優先でがんじがらめなのではないか。「子どもは大切」という共通認識があれば、本当に必要な予算を削る自治体はないと思います。

――教育は大事な問題なのに、選挙の争点として浮上しにくい。
 議論が抽象的になり、身近に感じられません。政党のマニフェストでいろいろな数値目標が出ているのかもしれないが、我が子の将来にどう影響するのか、 ちっとも見えてこない。不登校やいじめなどの問題を抱えている家庭は、もうすぐ夏休みが終わって2学期が始まり、我が子はどうなるのかと悩んでいると思い ます。選挙どころではない。
 どんな立派な政治家でも、家庭に戻れば一人の親。子どもが話してくれないとか、学校に行かないとか、悩みはあるはず。そういう身近な問題から出発して、 家族を元気にするにはどうしたらいいか、国に何ができるか、ということを語りかけてほしい。子育てに悩む家庭の「救出作戦」を出し合って、議論してほしい ですね。(8/25)